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便利道具弊害 その2

平成5年冬のこと、のんちゃんは小学二年生、学校が終わって校門をくぐると雨が降ってきた。お母さんから「雨が降ったら濡れないで軒下で待ちなさい、迎えに行くから」と聞かされたのを思い出し体育館まで戻って待つことにした。

お母さんは来てくれるか不安だった。雨の滴で運動靴は濡れてきた。靴下も濡れてきた。冬の雨が冷たいけれどお母さんは必ず来てくれると信じて待った。

散髪屋の角をエプロン姿のお母さんが傘をさして来るのが見えた。手を振った。傘の下にお母さんの笑顔と優しい眼差し。手には長靴と小さな青い傘。「遅くなってごめんね。長く待った?」お母さんは来てくれたんだ。

雨靴に履き替えピチャピチャと水たまりを踏んで二人は歩いた。

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平成22年冬のこと、のんちゃんが校門をくぐると雨が降ってきた。携帯で「雨だから迎えに来て。着いたら携帯に電話ちょうだい」とお母さんに言った。体育館に入って待つ間、携帯で遊んだ。

五分でワゴン車が来てガラガラガラと自動ドアが開いて乗り込み、ブーっと車は走り出し家に向かった。

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少し前と今の話。時代の変化とかたづければそれまで。心配がなくなって手にしたものは時間とゲーム。失ったものは母の気持ちを探り、思う心の動き。どちらがのんちゃんにとって良いのだろうか。

もっと大切なことは、今の情景があたりまえで、少し前にあった心の通う情景をふり返れなくなった今の大人が怖い。

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